2020年 01月 18日
ネパール旅行記その5 「ネパールの端にある仏の教えの聖地」
フライトチケットを購入することができた私達はカトマンズからルンビニへと向かった。
ルンビニとはネパール南部、インド国境線の近くに位置する小さな村であり、ガウタマ・シッダールダ(仏陀)の生誕地や、仏教四大聖地としても知られている。観光名所であるルンビニ園のマーヤー寺院では、アショーカ王が作ったとされる釈迦生誕を示すマーカーストーンが近代になって発見され、今では世界中から多くの仏教巡礼者達がここへ訪れる。
ルンビニの空気はカトマンズ市内の様な排気ガスで汚染されてはいないが、吸い込むと生暖かく、何より湿気が凄まじい。空港から予約したホテルまでの道すがら、アスファルト鋪装されていない道はどこも土砂崩れの影響ででこぼこに歪み、移動には考えていたよりも長い時間を要した。道中、牛の群を連れ歩く現地の人たちを見かけ、如何にルンビニがネパールの中でも田舎らしく、かつインド国境線に近い場所であるのかを実感した。ホテルに荷を下ろした私達は明るいうちにルンビニを仏教四大聖地とする所以であるルンビニ園へと向かった。
ルンビニの小さな村は、ルンビニ園を囲むようにある。あまりに小さい村なので、建物らしき物はすべてホテルの屋上から見渡す事ができた。ホテル前でネパールに来て初めて物乞いの子供達に声をかけられたMくんは、日本との大きな貧困差に狼狽ていた。
ところが、ルンビニ園に入った途端にまわりの空気が変化した。湿気の強烈さはそのままだったが、不思議なことにどこかスッキリとした、穏やかな雰囲気に包まれているのだ。「俺の地元の空気によく似ているよ」と鹿児島県出身のMくんはやっと気を取り直し、ルンビニ園の中にある世界各国の名を取った寺巡りを楽しんでいるようだった。時間が経つに連れ、空を覆っていた雲が少しづつ風に流され始めていた。
日が沈む頃、私達は最終目的地であった日本山妙法寺へと向かった。寺が近くなり視界が開けた瞬間、私は寺の反対側へと続く地の果てに目を奪われた。遠方に、左から右へと連なる白く巨大な連峰が続いているのが見えたのだ。上昇気流か雲の類かと疑ったが、カメラの望遠レンズ越しに見たとたん、それが雲ではなく山であることがはっきり確認できた。
その白い連峰は、もう一つのヒマラヤと呼ばれるアンナプルナ保護地区を形成する、六千メートルから八千メートル級の山々の姿だった。いや、でもアンナプルナがここから見えるはずがない、と猜疑心を払えずにいたが改めてレンズを覗いてみた。間違いない。ルンビニからアンナプルナまでの距離は約百五十キロメートルで、仮に晴れていたとしても、もやが掛かって紛れ込みそうなそれらを目視するのは非常に難しいと言われている。運が良かった。寺を目前に脚を止めた私達は近くの高台に登り、しばらくその神々しい連峰を見つめ続けた。